偉大なチャンピオンの引退
3月1日、両国国技館で、ボクシング バンタム級、もと世界チャンピオンの山中慎介が負けて引退してしまった。
前回半年前、こてんぱんに負け連続防衛記録が途絶えたが、その相手、ルイス・ネリから禁止薬物反応が出て再試合となった因縁の今回、事もあろうにネリが今度は体重リミットを2.3kgもオーバーして試合に臨んだ。
2.3kgの差とは2階級ほども違う。ボクシングで2階級も違えばパンチの重さが全く変わる。「明日のジョー」の力石徹がフェザー級のままバンタム級の矢吹丈と試合するようなもの。かたや山中は見るからに減量苦で辛そうな様子。本当なら不成立でいい無効試合のはずなのに両国国技館に何千と詰めかけたファンの手前、やらないわけにいかなかったのか。
もともと体重差なしでも山中は衰えていたし、ネリは恐ろしく強い。その上この状況で戦えば負けるのは明白だ。結果として、負けた。
実は前回ネリと戦った時も山中に勝ち目は無いように見えた。尚更今回は、万全の状態で臨んでも苦しい相手にこちらは減量苦、相手は減量もせず超過体重で来たからそれはたまらない。あっさり2ラウンドで負けてしまった。
負けて、山中は大観衆のまえで泣いた。この日を待っていたようにさえ見えた。
アリスの「チャンピオン」という歌の歌詞の最後を思い起こす結末。これでただの男に帰れた山中。もう減量も激しいトレーニングも、勝たねばならないプレッシャーも味わう必要はない。まだ35才。これからの人生をもっと有意義にできるよう新たな挑戦を見つけ突き進んで欲しい。人生これからだ。違う道で成功だ。
奇しくも山中のメインイベントの前座試合はスーパーバンタム級世界チャンプの岩佐亮佑の初防衛戦だった。岩佐は山中がまだ日本チャンプの時に立ち向かった最強の挑戦者だった。7年も前の2011年3月、勝ち目が薄いとの下馬評を覆し激闘に勝った山中は、強い相手としか味わえない充実感を学ぶ。
それから山中は、もっと強い相手を求めて鍛錬し、世界戦12連続防衛という物凄い結果を残した。それもほとんどがノックアウト勝ちという圧倒的勝ちっぷりだ。その快進撃の契機が岩佐戦だった。
かたや岩佐はその後苦労して勝ち上がり、2017年秋に、ひと階級上げたスーパーバンタム級世界チャンピオンになった。山中との日本タイトル戦から6年半も後のことだ。そして3/1、国技館での山中対ネリ戦の一つ前の試合で、初防衛に成功した。
偉大なチャンプが一人去り、後を継ぐようにこれから岩佐の挑戦が始まる。山中ほど鮮やかな勝ちっぷりは期待しにくいけれど、岩佐にはもっと強くなり、大和魂を見せて欲しい。
どちらも人生はこれからだ。負けるな。
いろいろな出会いが見つかる。見つけて一歩、前へ進もう。
小さな一歩を踏み出す。ゼロから一へ、お手伝いします。
代表 豊井ゆきたか